誰もが「イングランドは終わった」と思った、その瞬間でした。 試合開始わずか7分。DRコンゴの鮮やかな先制ゴール。スタジアムは騒然となり、世界中のサッカーファンが優勝候補イングランドの早すぎる敗退を想像しました。しかし、この試合には誰も予想できなかった大逆転劇が待っていました。トーマス・トゥヘル監督が終盤に下した、ある大胆な決断。そしてハリー・ケインが再び世界最高峰のストライカーであることを証明する2ゴール。さらに、試合の裏側にはデクラン・ライスと長年支え続けてきた恋人が経験した、胸が締めつけられるような3年間の物語もありました。今回は、ワールドカップ屈指の名勝負となったイングランド対DRコンゴ、そのすべてを振り返ります。 2026年7月2日、アトランタスタジアム。優勝候補のイングランドは、決勝トーナメント1回戦でアフリカの強豪DRコンゴと激突しました。多くの専門家はイングランド有利と予想していましたが、試合開始直後からその予想は大きく揺らぎます。 前半7分、DRコンゴは左サイドから一気に攻撃を仕掛けます。フリーでボールを受けたブライアン・シペンガが迷うことなく右足を振り抜くと、強烈なシュートはニアサイドを射抜きゴールネットへ。イングランド守護神ジョーダン・ピックフォードも反応できない完璧な一撃でした。 まさかの失点にイングランドは動揺します。DRコンゴは高い位置から積極的にプレッシャーをかけ、イングランドに自由を与えません。デクラン・ライスやジュード・ベリンガムがボールを持っても、すぐに複数人で囲まれ、思うような攻撃が組み立てられませんでした。 それでも世界屈指のタレントを揃えるイングランドは少しずつ流れを引き寄せます。30分にはライスの鋭いクロスにベリンガムが頭で合わせますが、GKリオネル・ムバシが驚異的な反応でセーブ。35分にもノニ・マドゥエケのクロスから連続で決定機を迎えますが、アーロン・ワン・ビサカを中心とした守備陣が体を張ってゴールを守り抜きました。 一方のDRコンゴにも追加点のチャンスが訪れます。42分、ワン・ビサカのクロスにヨアネ・ウィッサが飛び込みますが、シュートは惜しくもポスト直撃。もしこの場面で2点差になっていたら、試合の結末はまったく違うものになっていたかもしれません。 さらに前半終了間際には、ハリー・ケインとGKムバシがゴール前で接触する場面もありました。イングランドの選手たちはPKをアピールしましたが、主審の判定はノーファウル。前半アディショナルタイムにもベリンガムやケインが立て続けにシュートを放ちますが、ムバシが再びビッグセーブ。前半はDRコンゴが理想的な形でリードを守り切りました。 後半に入るとイングランドはさらに攻勢を強めます。ライスの正確なセットプレー、ベリンガムのミドルシュート、ラッシュフォードの仕掛け。しかし、あと一歩が届きません。53分にはベリンガムのシュートがディフェンダーに当たりコースが変わる絶好のチャンスも、ムバシは最後まで集中力を切らさずスーパーセーブを見せました。 時間だけが過ぎていく中、トーマス・トゥヘル監督は勝負に出ます。60分にはアンソニー・ゴードンとブカヨ・サカを投入し、攻撃にスピードを加えます。そして70分、この試合最大のターニングポイントとなる采配を決断しました。 ジェド・スペンスを下げ、エベレチ・エゼを投入。そして本来ボランチであるデクラン・ライスを右サイドバックへ移動させたのです。 一見すると守備的にも見えるこの変更でしたが、実際には全く逆でした。ライスが右サイドからゲームを組み立てることで、イングランドは中央だけでなく両サイドからも自由に攻撃を展開できるようになります。ベリンガムはより高い位置でプレーでき、サカとゴードンも1対1の場面を増やしていきました。 この大胆なシステム変更が、ついに試合を動かします。 75分、左サイドでボールを持ったゴードンが柔らかなクロスをゴール前へ送ります。そこへ飛び込んだのは、やはりハリー・ケインでした。完璧なタイミングで放ったヘディングシュートはゴール左隅へ吸い込まれ、ついにイングランドが同点に追いつきます。 エースはここで終わりませんでした。 86分、ベリンガムがスルーパスに反応して相手守備陣を引きつけると、こぼれたボールがケインの足元へ渡ります。わずか一瞬、相手ディフェンダーの重心がずれた隙を見逃しませんでした。横へ持ち出してシュートコースを作り出し、冷静に右足を振り抜くと、ボールはゴールネットへ一直線。 逆転。 スタジアムを埋め尽くしたイングランドサポーターは歓喜に包まれました。 この2ゴールでケインは今大会通算5得点。得点ランキングでもトップ争いを続け、イングランドの優勝へ向けて欠かせない存在であることを改めて証明しました。 試合終了間際には、右サイドバックとして奮闘したライスに代えてジョン・ストーンズを投入。最後まで集中を切らさなかったイングランドは2対1で試合を締めくくり、ベスト16進出を決めました。 しかし、この試合でもう一人忘れてはならない存在がいます。 デクラン・ライスです。 試合では本職ではない右サイドバックでも高いパフォーマンスを披露し、攻撃の起点となりました。その冷静な判断力と戦術理解は、多くの専門家から絶賛されています。 そしてライスには、ピッチ外でも長年支え続けてくれる大切な存在がいます。 学生時代から交際を続ける恋人ローレン・フライヤーです。 しかし彼女は近年、SNS上で容姿に対する心ない誹謗中傷を繰り返し受けるようになりました。その影響は非常に深刻で、一時はスタジアムでライスの試合を観戦することさえ難しい状況だったと報じられています。 それでもライスは一度も彼女から離れませんでした。 「彼女は人生最愛の人だ。誰が何を言おうと関係ない。」 そう語ったライスの言葉は、多くのファンの心を打ちました。 華やかなワールドカップの舞台では、ゴールや勝敗ばかりが注目されます。しかし、その裏側には選手たちを支える家族や恋人、そして苦しみながらも前を向く人々の物語があります。 今回の逆転勝利は、ケインの決定力だけではありませんでした。トゥヘル監督の大胆な采配、ライスの献身、ベリンガムの運動量、そして途中出場したゴードンやサカが試合の流れを変えたこと。すべてが重なったからこそ生まれた奇跡の逆転劇だったのです。 一方、DRコンゴも最後まで堂々と戦い抜きました。序盤のハイプレス、組織的な守備、そしてGKムバシの神がかったセーブの数々。敗れはしたものの、世界中のサポーターに強烈な印象を残したことは間違いありません。 優勝候補イングランドは最大の試練を乗り越え、次なる戦いへ進みます。しかし、この苦しい90分が今後の大会を左右する重要な経験になる可能性もあります。 果たしてハリー・ケインはこの勢いのまま得点王へ突き進むのでしょうか。そしてトーマス・トゥヘル監督の”右サイドバック・ライス”という新たな戦術は、次の試合でも世界を驚かせるのでしょうか。 ワールドカップ2026は、まだ誰にも結末がわかりません。